NOW#06 ARCHIBAUの力 / 上垣内伸一

こんにちは。1988年卒の上垣内伸一です。いわゆる統括的立場の建築設計事務所を主宰しています。典型的な「何でも自分でできちゃう建築家」じゃないタイプなので、「協働」が一つの人生テーマみたいな感じです。

名前 :上垣内 伸一(うえがいと しんいち)
職業 :建築設計事務所主宰
研究室:服部研究室(建築計画)

略歴
1988 千葉大学工学部建築学科 卒業
1990 千葉大学大学院工学研究科 修了
1990  一級建築士事務所ウイプロ
1992  團・青島建築設計事務所→團紀彦建築設計事務所
2000  一級建築士事務所ファンクアソシエイツ.共同設立
2004  有限会社ウエガイト建築設計事務所設立

所属 (公社)日本建築家協会、(一社)東京建築士会

この数年は保育園の設計を手がけることが多くなっています。
(写真は2018年4月開園のゆらりん下目黒保育園の保育室)

 

今更あれですが、1999年、34歳の時に勤め先を退職してさあ独立するぞ、と思った矢先にたまたま発足した同窓会準備会(ARCHIBAUの前身)に誘われて、翌2000年に正式発足したARCHIBAUの初代事務局長中谷正人さんの下でそのまま事務局メンバー、その後中谷さんが2代目会長になったのを機に事務局長も務めたりしながら2011年まで運営側にいました。独立したてで時間もあって融通も利きやすかったこともあり、そしてなにより若かったですから、同時期にたまたまデザイン工学科建築系の非常勤講師もさせていただいて、同世代の若いOBOGや千葉大の学生たちと一緒に色々と面白おかしく楽しい時間を過ごさせて頂きました。
そんな私ももう53歳(汗)。当時の学生達がその頃の私の年齢になりました。

(写真はARCHIBAU発足時の会報創刊号表紙)

建築士事務所を独立開業して満18年、最初の頃は個人住宅の仕事がほとんどでしたが、最近はむしろ保育園の仕事が多くなっています。まさに待機児童対策、社会問題のど真ん中にいるわけです。

ところで、

設計実務に携わっていると、なんでこんな変な法令があるんだろうかとか、法令や規制どうしが邪魔し合って設計がまとめにくくて仕方ないと思ったことが何度もあります。恐らく同じように感じている方も多いかと思います。でも大抵、のど元を過ぎると熱さも忘れるように、まあいいかとかで次の仕事に忙殺されていきます。
そんな中で、あるとき、2015年の建築士法改正が建築の団体からの働きかけで成立したことを知りました。建築三会という、日本建築士会連合会(士会連合)、日本建築士事務所協会連合会(日事連)、日本建築家協会(JIA)が手を組んで2014年に議員立法までこぎつけ、国会を通過させてしまったのです。ふーん、という感じかも知れませんが、国の法律を、民間業界・実務者団体の側から変えるように働きかけて実現させてしまうというのはかなり稀なことなんだそうです。ましてや、やられっぱなしに慣れてる建築設計業界が。これは、もしかしたら色々と変だなと思ってることを変えられるのかも知れないと、そのとき浅はかにも思ったのでした。

2016年のはじめ、世はまさに待機児童問題で「保育園落ちた、日本死ね」ブログ問題が国会にまで採り上げられて大騒ぎになってました。たまたまこの数年、主にビルインの保育園の内装設計を手がけることが多かった私は、かかってくる法令や規制の多さに毎日うんざりして、どう見ても無駄な規制が多いことに呆れてたので、そんなのが一つでも緩和されればもっと早く保育園を増やせるのにと思ってたのですが、ひょんなことから建築三会の東京版(東京建築士会、東京都建築士事務所協会、JIA関東甲信越支部)のワーキングとして、この問題に取り組むチャンスを得ました。【東京三会建築会議待機児童問題解消WG】、これがその時のWGの名称です。それぞれの会から保育園などの建築設計経験や既存建築の改修設計経験の豊富なメンバーが集められて、主に改修型・ビルイン型の保育園を増やしやすくするための提言を、東京都に対して行うことになったわけです。ちなみにメンバーの中には、同じ千葉大卒の建築家、石嶋寿和(石嶋設計室)さんもいました。石嶋さんは恐らくいま彼ほど大小規模に亘る保育園を設計している人はいないんじゃないかってくらい経験値の高い方(特にビルイン型に関してはまず右に出る人はいないでしょう)でしたので、会としてもWGとしても是非加わって欲しいと切望された人材でした。

WGは、小池都政誕生で待機児童問題解消が加速されたこともあって、建築法制を取り仕切る東京都都市整備局だけでなく、保育所の認可や運営を規制する福祉保健局まで巻き込んでの議論創出に成功し、結果的に国にまで持ち上がっての採光規制の緩和告示改正にまで達しました。思わぬ展開に、当の本人達が一番びっくりしたものでした。まあ実際問題、採光規制が緩和されたからってどれほど保育園がつくりやすくなったかというと、それなりなのは言われるまでもなくわかってますし、ましてや待機児童問題の本質は保育園の数なんかよりむしろ保育士不足の方が遙かに深刻なのもわかってますけど、それでもせめて自分の専門分野から社会の役に立つアクションを起こすことが大事だし、それが何かしらの実を結べるってことが実証できるんだということを皆さんにも知って欲しいと思ってこれを書いた次第です。

 

で、何が言いたいかというと、

一人では何も変える力など無いですが、適切な団体の力を適切に使えると、できそうもないことができる場合もあるんだということを、身を以て体験したってことです。私の場合、その全ての原点は、30代から40代にかけてのARCHIBAUの運営活動だったと思っています。先の石嶋さんとの出会いもARCHIBAUを通じてですし、他にもたくさんの人たち、仕事してるだけでは出会わなかっただろう人たち、と知り合うことができました。普通とても気軽に話しかけることなんてできないような偉い方々からもいじられるようになったり(笑)、様々な経験をさせてもらうことで新しい世界をたくさん知ることもできました。これを読んでる若い世代の皆さん、是非、ARCHIBAUの力を利用して、自分が興味のあることを企画し、自ら実行してみて下さい。それが実現したときはもちろん嬉しいですが、10年、15年後にまた別の形でその経験が生きてくるはずです。

なんか偉そうなこと言っちゃってるな〜、まずいな〜って思ってます。すみません。遠慮の無い突っ込みお待ちしてます。